【インタビュー】徳井厚子さん

『改訂版 多文化共生のコミュニケーション』著者

『改訂版 多文化共生のコミュニケーション』(アルク)の著者である徳井厚子さんに、執筆の経緯、改訂版に込めた思い、また最近携わっている活動についてお聞きしました。
――『改訂版 多文化共生のコミュニケーション』の作成までどのような道のりがありましたか。
1980年代にアメリカに留学したり、中国の大学で日本語を教えたりと、海外で暮らした経験の影響もあるのですが、本格的に異文化コミュニケーションの研究を始めたのは、1990年代にCOEのプロジェクトで異文化コミュニケーションが専門の先生たちと一緒に、日本・中国・アメリカの企業の方たちを対象に集団コミュニケーションの調査・比較をしたときです。企業の人たち対象に、国ごとにディスカッションの進め方が違うことなどがデータから明らかになったのですが、そのときが今思えば異文化コミュニケーション関係の研究を始めたきっかけです。その後の様々な経験から、現在は異文化というのは国別ではなく、個人個人の違いや多様性に注目していくものと認識しています。

2002年に出した『多文化共生のコミュニケーション』は、当時大学で留学生と日本人学生が共に学ぶ多文化クラス(今でいう国際共修)を運営していたのですが、多文化クラスの運営方法やそこで起こる摩擦などの実践が積み重なってきたので、日本語教育の現場という立場からの実践例を織り交ぜながら、異文化コミュニケーションの理論を捉え直してみようということを目的にまとめたものです。

理論書というより、現場発信型、実践重視型とういう特徴がありますので、地域で日本語教育や異文化交流に携わっている人、小・中学校で外国籍児童の日本語指導に携わっている人、日本語教師の養成や研修に携わっている人、など日本語教育に携わっている人、携わろうと思っている人全般に読んでいただきたいものになっています。このスタンスは2020年の改訂版も同じです。

――2020年に改訂版が発行されています。改訂版で加筆した部分はどのようなメッセージを込めましたか。
そうですね。今は予測不可能な社会になってきていると思うんです。そういうときだからこそ、違いのある人々が互いの文化的違いを認め合って対等な関係を築こうとする「多文化共生」の原点に立ち戻ることが大切だという気持ちを込めて書きました。
また改訂版ではマイナス面も正面から取り扱うということを意識しました。例えば異文化接触は、プラスの面だけではなく、マイナスの面もあります。マイナス面があるというのはカルチャーショックなどに関しても言えますが、マイナス面もわかったうえで、それを成長のチャンスと捉えることが重要であるというメッセージを込めました。また、クリティカルに自身のコミュニケーションを捉え直してほしいというメッセージも込めました。

――それでは、徳井さんが最近取り組んでいる、地域日本語教育関連の活動についても教えていただけますか。
そうですね、11月に大学生と外国籍の子どもで行った学習交流会があります。これはもともと夏休みに大学生が子どもに宿題などを教えるイベントでしたが、コロナが流行してからは中断していたのですが、今年は初めてオンラインで開催しました。今まで中止していたので、実は誰も参加してくれないかも、とダメ元でやり始めてみたのですが、大学生は様々に教え方を工夫して、楽しみながら子どもに教えていました。子どもも大変喜んでくれて。オンラインということでどうなるか心配していたのですが、始めてみると案外うまくいくこともある、まずはやってみることが大切、とお伝えしたいです。

この学習交流会は長野市のインバウンド国際室と長野市教育委員会と連携して行ったのですが、教育委員会では校長会で参加者の呼びかけを行ってくださいました。連携するといろいろなことができると思います。

もう一つはサンタプロジェクトhttp://www.anpie.or.jp/santa_project/ に携わっています。県と企業が一緒になって外国籍児童生徒を支援する、長野独自のプロジェクトです。元々このプロジェクトは外国籍の子どもの通う母国語教室の援助をしていたものですが、その後母国語教室が減少し今は外国籍児童就学支援ということで、日本語教室の支援等をやっています。この活動をしながら感じたことはボランティア団体や自治体の連携も大切だけれども、経営者や企業側からのサポートや、そことの連携があるといろいろなことができるということです。

これからは、地域の子どもの支援は各所の連携が必要になってくるのではないでしょうか。それぞれに無理のない連携をしていくことで、やれることが広がっていくと思います。

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