【教室の運営】サードプレイスとしての地域日本語教室

2022年10月21日、多文化社会専門職機構の主催にて、全国各地で活動する地域日本語教育コーディネーターを対象にした「地域日本語教育コーディネーターフォローアップ研修」が東京都内で開催されました。計69名が参加したこの研修において、私は「サードプレイスとしての地域日本語教室」というテーマで講演を行いました。ここでは、その要旨をご紹介します。【深江新太郎】

地域日本語教育コーディネータ―フォローアップ研修

本研修全体の様子については、次よりご覧いただけます。
多文化社会専門職機構HP

サードプレイスとしての教室とは

現在、地域の日本語教室の主たる対象は、技能実習生です。技能実習生は、2010年時点では11,026人でしたが、2020年時点では約40倍の402,356人となりました。この技能実習生をめぐる地域社会の課題に、地域住民との顔の見えない関係性があります。2021年に福岡県古賀市が実施した外国人住民向けのアンケート結果において、「あなたは今、住んでいる地域の人と交流がありますか?」という質問に対する技能実習生の回答は、「まったくない・あまりない」が約70%でした。この社会課題に取り組むにあたり、日本語教室がサードプレイスとして機能することが期待されます。サードプレイスとは、アメリカの社会学者であるオルデンバーグが提案、推奨した概念で、家庭でも、職場、学校でもない居心地のよい地域に開かれた場所を意味します。日本語教室とは、日本人住民と外国人住民が対等な関係でゆるくつながり合える地域の開かれた場所で、その活動の一環として、暮らしの日本語を学べる場所と言うことができます。

サードプレイスとしての教室づくり

福岡県古賀市は、現在、学習者の登録者数が73名、スタッフの登録者数が41名で、毎週2回、活動を行なっています。地域の住民に開かれた教室運営を行っている福岡県古賀市ですが、2020年までは、少数の日本語教師が少数の学習者に教えている教室でした。ただ、2020年に、私と共に新たな教室づくりに着手しました。その取り組みを整理すると、①教室のコンセプトをつくる ②聞く力をテーマにした研修を行う ③周知を十分に行い若い世代の参加を促す、というポイントが見えてきました。

①教室のコンセプトをつくる

教室はどのような役割を持った場所か明確にすることが、教室のコンセプトづくりです。福岡県古賀市のコンセプトは①仲間と一緒に楽しく過ごせる場所 ②地域に密着し文化に触れ、情報を得て豊かに生活できる場所 ③自分の思いを表現できるよう、楽しく学ぶ場所です。このように教室のコンセプトを「○○○場所」とまとめることで、それぞれの教室がどのような場所なのか、メンバーで共通認識を持つことができます。2022年11月に教室を開設した福岡県苅田町のコンセプトは、①なんでも聞ける なんでも話せる場所 ②楽しく学べて 居心地のいい場所 ③人や地域とつながる場所です。教室立ち上げの際に、ボランティアと共にこのコンセプトづくりを行うと、地域住民の方々がつくりたい教室はサードプレイスであることを実感します。

②聞く力をテーマにした研修を行う

サードプレイスとしての日本語教室は、悩みを話せる場所、自分の思いをしっかりと聞いてもらえる場所、安心できる場所とも、言い換えることができます。このような場所をつくるためには、支援者は学習者の声を聞くことができなければなりません。福岡県苅田町は2022年8月に聞く力をテーマにして、2回の養成講座を行ないました。参加者の声には、「教えるを念頭に置くのではなく、その人のことを知り、話を引き出していくことの大切さを学びました。」などがありました。この聞く力については、今、その必要性が着目され始めています。2022年12月3日には、名古屋国際センターと東海日本語ネットワークの主催で、「学習者の声、聴いてますか?」をテーマに日本語ボランティアシンポジウム2022が開催されます。詳細は、次より、ご覧いただけます。

名古屋国際センターHP(終了しました)

③周知活動を十分に行い若い世代の参加を促す

日本語教室の抱えた大きな課題に、担い手の高齢化と若い世代の参加が少ないことがあげられます。ただ、若い世代が日本語教室に関心がないわけではありません。日本語教室の役割を日本語を教える場所に特化せず、サードプレイスとして考えることで、若い世代が参加しやすくなります。例えば、宮崎県小林市では、地元の小林高校の生徒2名が教室活動を企画し、その内容について、みなで意見交換を行いました。また福岡県広川町は、若い世代のスタッフを募集し、10代が12名、20代が2名、計14名の登録がありました。宮崎県小林市は、地域の方々が使わなくなった浴衣を提供し、それを外国人住民の方々が着る機会をつくり、チェキで写真を撮ったり、スマホで撮った写真をパソコンに取り込み、はがきサイズで印刷して手紙を書いたりする活動が企画されています。福岡県広川町は、気軽に友人の家に遊びに行く感覚で参加できる場所をめざし、休日に地域のおまつりに参加する活動などを行う予定です。

まとめ

講演終了後、外国籍のコーディネータ―の方から、次のようなことばをもらいました。「外国人住民の気持ちを分かってくれてありがとう。本当に必要なのはこういう教室。」私は、ほっとしました。サードプレイスという視点を持つことで、外国人住民にとっても、日本人住民にとっても必要な教室を考えやすくなるでしょう。


執筆 / 深江新太郎
「在住外国人が自分らしく暮らせるような小さな支援を行う」をミッションとしたNPO多文化共生プロジェクト代表。福岡県と福岡市が取り組む地域日本語教育体制整備事業(文化庁補助事業)のアドバイザー、コーディネータ―。文化庁委嘱・地域日本語教育アドバイザーなど。著書に『生活者としての外国人向け 私らしく暮らすための日本語ワークブック』(アルク)がある。

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