日本語教師にとっては「生活」分野として注目され始めている地域日本語教育。その可能性を切り拓くことをめざしたセミナーが開催されます、ここではセミナーをより楽しむためのエッセンスをご紹介します。(深江新太郎) □文科省委託事業 現職日本語教師研修プログラム普及事業 ■主催:インターカルト日本語学校 ■題目:地域日本語教育の可能性を切り拓く ■内容:【講演1】 地域日本語教育と言語教育政策 / 神吉宇一(武蔵野大学) 【講演2】 福岡県における地域日本語教室の展開とその意義 / 深江新太郎(NPO多文化共生プロジェクト) 【意見交換】地域日本語教室の意義をどうことばにする? ファシリテーター / 高柳香代(TADECO,宮崎県国際交流協会) ■日時:2025年1月11日(土)14時~16時30分 ■場所:熊本森都心プラザ(JR熊本駅,徒歩3分) ■詳細:こちらから ■共催:NPO多文化共生プロジェクト
講演1 地域日本語教育と言語教育政策 / 神吉宇一
現在、地域日本語教育は、国の社会統合政策の一環として着目されています。国は、2018年に「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」を決定し、それを受ける形で、2019年に「外国人材の受けれ・共生のための地域日本語教育推進事業 地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業」(以下、体制づくり事業)を開始しました。この体制づくり事業に2023年度は55の地方公共団体等が取り組み、地域日本語教育の体制整備が行われています。このように地域日本語教育が政策と切り離せなくなっている中、神吉さんは「日本語教育政策研究は何をめざすのか-人文学としての日本語教育学と学際性-」において、「共生社会の実現と日本語教育がどのように関係するのか」(p.88)を考える視座として、「関心にもとづく日本語教育の四象限見取図」(p.90,以下「見取図」)を提示しています。「見取図」を通して、地方公共団体が施策として進めていく地域日本語教育はどのような関心に基づいた教育であるか、また公的な領域ではない中でそれぞれの地域日本語教室が行う活動にはどのような可能性があるか、など考えることができます。講演の前に、次をお読みいただくと、当日をより楽しんでいただけると思います。
神吉宇一(2024)「日本語教育政策研究は何をめざすのか-人文学としての日本語教育学と学際性-」(西口光一(監)『一歩進んだ日本語教育概論』大阪大学出版会)
◆大阪大学出版会HP:https://www.osaka-up.or.jp/book.php?isbn=978-4-87259-801-8
講演2 福岡県における地域日本語教室の展開とその意義 / 深江新太郎
私の発表では、福岡県、福岡市とともに取り組んでいる体制づくり事業の具体的な事例を紹介します。福岡県は2020年度から体制づくり事業に取り組み、2020年度から2022年度までは県内3市町がモデル事例として地域日本語教室を開設しました。結果として、直方市と苅田町は企業と連携した地域日本語教室を開設し、古賀市は住民主体の地域日本語教室を開設しました。また、福岡市は地域住民と日本語教師が協働する公民館での日本語教室を開設したり、日本人住民の啓発を目的とした「外国人×日本人のしゃべりば」を開催したりしました。現在、私はこれらの教室や取り組みがどのような意義を持つのか、ボランティアや学習者にインタビューを行いながら考えています。講演では、そのインタビューの結果なども踏まえ、日本語教室の意義を提示していきます。講演の前に、次をお読みいただくと、当日をより楽しんでいただけると思います。
福岡県「日本語教室立ち上げ事例集(県内自治体の取組)」
◆福岡県HP:https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/nihonngo.html
意見交換 地域日本語教室の意義をどうことばにする? / ファシリテーター 高柳香代
2つの講演を受けて、高柳さんの進行で、地域日本語教室の意義をどうことばにするか、フロアのみなさんも交え、意見交換を行います。この意義をことばにするにあたり、鍵となる問いかけが、「みなさんはどのような社会をつくりたいですか」です。社会ということばが大きければ、地域やコミュニティと言い換えてもいいと思います。現在、国や地方公共団体が施策として地域日本語教育に取り組むようになり、国としてのビジョン、地方公共団体としてのビジョンのもとに、地域日本語教室が位置づけられています。ただ同時に大切なのは、地域日本語教室に参加する外国人住民、ボランティア、日本語教師がどのような社会をつくりたいと考えているかでしょう。当日は、高柳さんの実践事例も交え、登壇者、フロアのみなさんと意見を交わし合います。
セミナー終了後は、会場を開放し、登壇者と自由に意見交換できる時間を設けています。本セミナー内容以外でも、いろいろと話せる機会となっていますので、どうぞご活用ください。