地域日本語教育に携わるコーディネーターという役割を聞くようになってきましたが、コーディネーターになる道筋はどんなものなのでしょうか。また、それぞれどのような想いを持ち、どのような仕事をしているのでしょうか。実際にコーディネーターとして活躍する方々にインタビューしていきたいと思います。今回は福岡県直方市で活動する待鳥友希江さんです。
――現在、福岡県直方市で地域日本語教室のコーディネーターをなさっている待鳥さんですが、コーディネーターになった経緯を教えていただけますか。
私は14年前から日本語教師として教えていまして、妊娠・出産で辞めてまた復帰、というのを繰り返していました。でも、この数年は新型コロナ感染症の影響で復帰が難しくなった時期がありました。それで、それまでも興味があった地域の日本語教室に関心が向いているときに、市報の内容に目が留まりました。そこには直方市が技能実習生対象の教室を開講するため、ボランティア養成講座を開くとあり、気になって問い合わせをしてみたんです。
その養成講座には時間の都合つかず、参加はできなかったのですが、直方市は「日本語教師が技能実習生に授業を行う日本語教室」と、その実習生が通う、「地域住民が携わるボランティア教室」という、それぞれの役割のある教室を立ち上げようとしていました。それは直方市にとっても初めてのことだったので、私が日本語教師ということもあり、直方市から「お話を聞かせてくれませんか」ということで相談を受けました。
その流れの中で教室のコーディネーターとしての打診を受けたのですが、その時点ではコーディネーターという仕事について未知の世界、全然わからない状態でした。全然わからなかったけど、断ったらもうこの話は来ないかもしれない。直方市も1からだし、自分一人でやるわけではない。なんとかなるかな、チャンスだから飛び込んでしまえ、と思いました。
今は週1日、教室のコーディネーター、もう1日は日本語学校の教師として学生に教える、というスケジュールで働いています。
――日本語学校の教師も再開しているんですね。教室のコーディネーターは、具体的にはどういうお立場で、どういう内容の仕事内容で活動なさっているんですか。
2022年の3月までは、福岡県の広域事業として行われたので福岡県と契約して活動していました。2023年4月からは直方市との契約となっています。
具体的には、先ほどの2種類の教室のうちの、「地域住民が携わるボランティア教室」のほうの教室運営を担当しています。体制としては、県のコーディネーターがいて、企業がお金を出して運営される日本語教室には日本語教師がいます。そのうちの1名がサポートコーディネーターとして、ボランティア教室に携わってくださっています。ボランティア教室には、日本語教室のフォローをする役割がありますので、日本語教室との連携も大切になります。サポートコーディネーターの方と直方市の職員の方々が橋渡しをしてくれて、常に連携しながら進めています。
私が担当している教室のほうは、今は技能実習生15名、ボランティアの方が15名程のメンバーがいます。1対1で教えるのではなく、複数対複数でテーマを決めて話すのが主な活動内容で、日本語教室で授業した内容に沿って、私が毎週テーマを考えています。
それだけでなく、書き初めをしたり、昔の遊びをしてみたりという活動もその時々で入れています。
月に1回はグループに分かれてではなく、みんなでまとまって何かをする機会も必要だと思って、レクリエーションの時間も設けています。ボランティアさんと話し合って、意見を聞いたうえで、出た案を最終的に形にしていくのも私の役目です。
それから月に1回は振り返りの場を設けていて、ボランティアさんに教室運営についての要望や困ったことなどを聞き対応するようにします。実習生からの要望を聞き定期的に活動に取り入れていったり、市役所の方と方針を話し合ったり、ということもやっています。
――待鳥さんは、教室に関わる方の意見をすくいあげ、その方たちと協力しながら、軸となって教室運営しているんですね。教室のコーディネーターをする中で、難しいと感じることはどんなことですか。
ずっとやってきた日本語教師の場合だと、教師と学生は、教える立場と教わる立場という、立場の違いがあるし、学ぶ目的もある一定の幅の中にあります。でもボランティア教室は、自分・実習生・ボランティアさんは横並びの関係で、ボランティアさんの年齢やこれまでのご経験も幅広く、実習生の現状や背景も幅広いです。幅広い方たちが集まっている中を、横並びの関係である自分が取りまとめていく、というところには難しさを感じますね。
日本語学校は授業も、年間を通してある程度やることは決まっていて、枠の中で考えます。ボランティア教室は、同じことをしていると飽きてしまうし、来ている人たちが幅広い分、同じことをしても受け取り方がさまざまです。ですので、だれにとっても「学ぶことができた」と感じられる時間や場を作るということにも難しさを感じます。
――日本語教師から地域の教室に来て、「関係が横並びである」というように、すぐに意識の切り替えができたのですか。
そこは割とはじめから、そのような意識でいました。私が携わっている地域教室は、はじめにボランティアさんも一緒になって教室のコンセプトづくりをするところからスタートしたんです。決まったコンセプトは、
・お互いを理解しあえる場所
・ほっと和む場所
・すてきな仲間に会える場所
・学びの場所
です。ですから、はじめからこの教室は自分が率いていくというのではなく、みんなで一緒にやっていくというイメージがありました。だからあまり枠を作りすぎず、提示したテーマ通りに話さなくても、関係のない話になってもOK、みんなが楽しく通えるように、と思ってやっています。ときどき、自分の中から「教えなきゃ」という雰囲気が出てくることもあるんですが、そこはぐっと抑えるようにしています。
――コーディネーターを経験されて、どんな人がコーディネーターに向いているとお感じになりますか。
まだ経験の浅い中ですので、あえていうなら、ということになりますが、私が思うのは小さなことから大きなことまで興味を持てる人、気づく人じゃないかと思います。例えばボランティアさんが髪を切ったね、ということから今流行っていること、外国のこと、社会情勢などさまざまなことに興味を持っていると、それが教室づくりにつながるんじゃないかな、と。
それから短い間ですがやってきて実感したのが、何か意見があったら自分の意見とは違ってもすぐに否定せず、まずは肯定するような、柔軟性の大切さです。オープンな気持ちで1回受け止めてみて、自分だけでなんとかしようとせずに、周りと一緒に考えていく中で、自分の意見を変えていけるような柔軟さ。それがあればいろいろな方が揃っている中で、楽しいことが見つけやすいんじゃないかなと思っています。
実は私は元々、真反対の性質で、自分の意見があったらそれ以外はなかなか受け入れにくいところがありました。だからこそコーディネーターの仕事で教室の皆さんと関わることで、そこを変えていって自分自身レベルアップできるんじゃないかという気持ちがありました。
――真反対だったんですね…! 最後になりますが、今後の課題だと思っていることなどはありますか。
難しくて答えが出ないんですが、実習生の方が継続して通うのが難しいという問題があります。残業が重なってしまって・仕事で疲れてしまって・シフトの関係で時間が合わなくなって、などさまざまな理由で来る足が鈍ってくる場合があります。それからボランティアさんの定着の問題もあります。皆さん、ご自分の生活ありきですからお仕事の事情、家庭の事情などで来られなくなったり、「教室の雰囲気が合わない」というような理由もあったりします。新しい方が入りやすい雰囲気は作っていきたいし、変化することは問題ではないんですけれども、安定した人数でやっていけるかというのは課題ですね。
解決策がなかなか見つからない課題ではありますが、できる限り「楽しかった、来てよかった」だけで終わらずに、「今日はこういうことができた、身に付いたことがあった」と感じてもらえるようにすることが、継続して来てもらうことにつながると思っています。それは実習生だけでなく、ボランティアさんもです。例えば日本のことについて聞かれても案外知らないことが多くて、それを他の人から教わったり、調べて資料を用意することで自分も勉強することができたりします。「提供するだけでなく、得るものがある場」にする努力は続けていきたいと思っています。
「実習生、ボランティアさんが楽しんでくれているとやっていてよかったと思うし、彼らのために何ができるかと考えることが楽しい。この教室に携われることに感謝しています」と、本当に充実して楽しそうな様子でお話いただいた待鳥さん。どうもありがとうございました!