地域日本語教育コーディネーター/油川美和さん(千葉県)

地域日本語教育コーディネーターという役割を聞くようになってきましたが、コーディネーターになる道筋はどんなものなのでしょうか。また、実際にどのような想いを持ち、どのような仕事をしているのでしょうか。地域日本語教育に携わりコーディネーターとして活躍する方々にインタビューしていきたいと思います。初回は千葉県で活動する油川美和さんです。

――油川さん、今日はよろしくお願いします。早速ですが、油川さんの現在の肩書というと、何になるのでしょうか。

(公財)ちば国際コンベンションビューロー・千葉県国際交流センター(以下、「千葉県国際交流センター」という)から業務委託された地域日本語教育コーディネーターです。令和4年から携わっていて、今(2023年4月末現在)、2年目に入ったところです。千葉県の地域日本語教育推進事業プランが令和3年3月にできて、その中で地域日本語教育コーディネーターの設置が目標に掲げられ、令和4年度から実際に設置されたというのが背景です。

――油川さんが地域や日本語教育に関わるようになった経緯を教えていただきたいのですが。

私は大学を卒業後、企業で働いていたのですが、結婚後は専業主婦で、夫の転勤のために各地を転々とする暮らしでした。千葉県の我孫子市のアパートに住んでいたとき、同じアパートに中国人の夫婦がいまして。夫婦のうち、女性のほうは日本語が話せず、家に閉じこもってしまっていたので遊びに来てくれないだろうか、と、その旦那さんに頼まれました。

それで私がピンポンと訪ねていくと、彼女は日本語もできないし英語も片言ですが、うれしさのあふれた様子でお茶しましょう、と喜んでくれました。それで漢字やイラストを使ってコミュニケーションを取りました。その中で、保育園と保育所の違いがわからないので知りたい、とか働きたいけどシステムがわからない、などということが出てきて、「そうか、外国で暮らすとこういうことがわからないのか」と思ったのがきっかけです。

そのうちに近くのショッピングセンターに我孫子市国際交流協会主催の「日本語の教え方講座」のポスターが貼ってあるのを夫が見つけ、それに参加しました。それから10年ほどボランティアとして、いくつかの地域の、カラーや目的も違う教室で活動しました。

その後、もうちょっと専門的に勉強したくなって2010年に独学で日本語教育能力検定試験を受験し合格。2012年に文化庁の地域日本語教育コーディネーター研修を受けました。それというのも、地域で日本語支援をしてきて、次年度にも運営の仕方をそのまま引き継ぐということが多く、生活者としての日本語学習者のニーズを把握すれば、もっといい活動ができるのではないか、という思いがあったんです。

そのあたりを知りたくて研修を受けたので、当時は「コーディネーターになりたい!」という気持ちがあったわけではありませんでした。その後は日本語学校で非常勤として複数掛け持ちして教科書に沿って教えたり、試験対策をしたり、という経験もしました。

――そこからどのように地域日本語教育コーディネーターにつながっていったのですか。

コロナ禍に入ったこともあって日本語学校で働くのはもういいかな、と思っていた時期に、地域日本語教育コーディネーター研修を受けたときの同期が、「日本語学習支援者研修プログラム普及事業のプログラムコーディネーターとして参加してみない?」と声をかけてくれました。 

この普及事業の中で、日本語支援者向けの養成講座をプログラムするのが主な仕事内容で、県の国際課の方や千葉県国際交流センターの日本語チームの皆さん、総括コーディネーターの方や講師の先生方と1年間研修を受けながら、講座をプログラムして実施するという経験をしました。その中で、わたしと一緒に講座を実施した千葉県国際交流センターの方から「来年度から千葉県は地域日本語教育コーディネーターを置くんだけど、よかったら私たちと一緒にやっていただけませんか」と誘っていただいて。それで令和4年度から着任することになりました。

――縁がつながっていきますね。現在の地域日本語教育コーディネーターの役割や仕事内容はどのようなものですか。

1年間で更新する業務委託の契約になるのですが、必要に応じて千葉県国際交流センターに出向いたり、地域の教室などに視察に行ったりします。仕事内容の一つは千葉県の日本語学習に関する講座を企画して実施することです。これから活動を予定している日本語学習支援者向けの基礎講座や、既に活動されている学習支援者向けのフォローアップ講座、オンライン日本語クラスというものをやっています。

あとは空白地域における日本語教室の立ち上げ支援、既存の日本語教室に対する支援ということで、相談などにも対応します。教室を見学させていただいて、「ここをこうやると、もっとよくなるかもしれないですね」「他のところはこうやってうまくいったという例もあったみたいですよ」というようなアドバイスをさせていただく役割もあります。

仕事を進める上で連携しているのは、千葉県国際交流センター、総括コーディネーター、千葉県国際課多文化共生推進班や、講座を担当していただいている大学の先生方、教育委員会などになります。

――1つの日本語教室の運営ではなく、横で連携しながら県全体の教室に関わるのですね。コーディネーターとして活動することの、やりがいや難しさというのはどういう点に感じますか。

やりがいは、という質問に答えるのは少し難しくて。地域の日本語教室で教えているときは、来ている方が話せるようになるのをダイレクトに見ることでやりがいを感じられたのですが、今のコーディネーターの仕事内容では、それがなかなか見えないんです。

でも企画・実施した研修が終わった後に、受講者の方から「地域日本語教室の支援者として新しい一歩を踏み出しました」とか「オンラインサロンを立ち上げました」などと報告をいただくと、日本語教育支援としてやってよかったなと思います。もう一つには、基礎講座の後に、「やさしい日本語」を使って職場の外国人に話しかけてみた、幼稚園の外国人のママに勇気をもって話かけてみた、という受講者からの声を聞くと日本語教育の支援というだけでなく、地域の多文化共生につながっていると感じ、やりがいを感じます。

地域日本語教室についても、ZOOMで打ち合わせをすることもいいのですが、遠方でも教科書かついで会いに行くと、「こんなところまで来てくれたんですか」と対面の良さを感じられる交流がスタートします。すぐに結果がわかるわけではないのですが、「アドバイスされたことをあれから実行してみたんです」という声をいただけることもあってそれもやりがいになっています。

難しいと感じるのは、千葉県という同じ県内であっても、地域によって課題が多種多様だという点です。外国人がたくさんいるけれど支援者が少ない地域があると思えば、支援者はいるけれど外国人がとても少ない地域があったり。情報をたくさんもらえて研修にも参加しやすい地域もあれば、東京まで距離があって研修に参加しにくく、情報を得にくい地域もあったりします。支援者も多種多様、教室に参加する日本語学習者も多種多様な中で、その地域に適した日本語支援を形づくっていき、それを継続していくのは一筋縄ではいかないと感じています。

――課題も多い中で活動なさっていると思いますが、油川さんは、地域日本語教育コーディネーターとして必要な力は何だと考えますか。

そうですね。本当に地域日本語教育コーディネーターにもさまざまな能力・経験を持った方がいて、特に私はコーディネーターになってまだ2年目でもありますし、一概には言えないのですが、皆が話しやすい雰囲気を作る力を大切にしたいと思っています。明るくて誠実でというのはもちろんなのですが、特に重要なのは円滑にコミュニケーションがとれる能力ですね。例えばそれぞれにポリシーを持って歴史がある活動をしてきたような、大先輩にあたるボランティアの方たちなどと話をするときも、「もし参考になればうれしい」という気持ちで自分の意見を伝えるようにしています。コミュニケーション力とも関係しますが、地域の教室に携わる方たちと交流をしながら、相手を否定せず、意見を交わしながらゴールを目指していくというようなこともあるので、そのためにはファシリテーター力も必要だと思います。

また今、日本語教育関係の情報のスピードが速く、量も多くて大変なのですが、常にアンテナを張っておいて活動に生かせるものはつかむ情報収集能力も大切です。

全て、私が今、求めているコーディネーターとしての力です。きちんとこれらの力を付けて、仲間を増やしながら一緒に課題を解決しつつ、目標に向かって活動していいけるよう努力しています。

――日本語学校などの日本語教師から地域日本語教育コーディネーターを目指す、という道があると思うのですが、学んでいる方との関係性とか、こういうところが違う、というところがあったら教えてもらえますか。

日本語学校などの教師は日本語についての知識をしっかり持っているので、それを地域で生かすことは充分できます。ただやはり考え方や教える内容、教え方にもかなり違いがあるんですよね。日本語学校などでは「“学校”で教える“教師”」ですが、地域は「“同じ地域”に住む“仲間”」なんです。「教師と学生」という上下の関係性ではなくてフラットな関係性の中で、相手が生活していく上で何に困っているのかを探ってニーズに応えられるのが地域の教室の良さではないでしょうか。

実は私、日本語教師としての知識を蓄えた状態で、その知識を存分に活用したいと思って、地域教室で日本語学習者に細かく発音指導をしたことがあったんです。でもその方からは「私はネイティブになろうと思っているわけではないから、そこまではいらない」って言われて、そこで気付いて反省したということがあったんです。自分が持っている知識を全部出すんじゃなくて、相手のニーズに寄り添ったものを出すことが大切なんだって。

教え込むのではなくて生活者としての日本語学習者が何を学びたいかに応えるという能力を養うには、やはり地域の教室で活動してもらうのが一番だと思います。地域の教室に来る方は若い人からお年寄りまでいて、先週学んだ内容を復習して来られる人もいれば、先週やったことをほとんど忘れて来る方もいます。日本語学校より多種多様ですので、それに合わせる臨機応変さが求められますが……まずは教室に見学でもいいので足を運んでいただくのが最初のステップになるかと思います。

「地域日本語コーディネーターの仕事とは、地域の日本語支援という場に肥料を与えたり、耕したり、土台を整える仕事かな」とおっしゃっていた油川美和さん。ありがとうございました!