地域日本語教育コーディネーター 横山りえこさん(愛知県・岐阜県)

地域日本語教育に携わるコーディネーターという役割を聞くようになってきましたが、コーディネーターになる道筋はどんなものなのでしょうか。また、それぞれどのような想いを持ち、どのような仕事をしているのでしょうか。今回は愛知県と岐阜県のコーディネーターとして活動する横山りえこさんにお話を聞きました。

――現在、横山さんは地域日本語教育コーディネーター(あいち地域日本語教育コーディネーター・岐阜県地域日本語教育コーディネーター)として活動されていると伺いましたが、どのような経緯で活動されているのでしょうか。

現在、私は愛知県と岐阜県、2県の地域日本語教育コーディネーターをさせていただいています。両県とも、直接お声がけいただきました。以前から私は愛知県と岐阜県内で地域日本語教育に携わっています。どちらの県も、私のそうした活動や私自身の考えていることなどを見たり、知ったりしてくださってのご依頼だったと伺っています。

地域日本語教育コーディネーターをお引き受けする前になりますが、自分自身がもっと学びたいという想いから、令和4年度の文化庁委託日本語教育人材の研修プログラム普及事業地域日本語教育コーディネーター研修と、岐阜県が開講している日本語教育人材育成研修の、地域日本語教育コーディネーターコース、そして日本語指導者コースを受講していました。

岐阜県においてはそうした岐阜県開講の研修修了と、その修了者が登録できる岐阜県日本語教育人材バンクに登録していたということもお声掛けいただいた理由に関係があると思います。

――公募という形ではなく、両方とも直接のお声がけだったのですね。では愛知県のほうから、具体的な活動内容を教えていただけますか。

はい。愛知県で私がさせていただいていることは、日本語教育体制整備事業でもある初期日本語教育モデル事業に関することと、コーディネ―ター派遣事業、そしてネットワーク会議への参加です。

まず初期日本語教育モデル事業についてですが、愛知県では令和5年度から県内の三つの市で事業を実施しています。私は三つのうちの一つの地域を担当させいただいています。

この事業内容は大きく二つあります。一つ目は当該地域の外国人市民の皆さんを主な対象とした「初期日本語教室」の開講、二つ目はその教室に携わっていただく日本語サポーターおよび指導者を育てる「初期日本語教育のための指導者養成講座」の開講サポートです。どちらも次年度から当該市に初期日本語教室を継続運営していただけるよう、県が初年度の教室開講をサポートし、体制を整えていくものです。

日本語教室は、日本語学習者と日本語サポーターによる「対話型」の活動を行います。指導者養成講座は、座学と実践を組み合わせ、次年度以降、初期日本語教室で指導者となっていただける方を養成していきます。

日本語教室も指導者養成講座も、運営は愛知県が外部に委託していて、受託事業者(団体や組織)が運営することになります。私はそれら二つの開講に向け、当該市の職員の皆さんと打ち合わせをし、教室参加者の状況の把握や募集の仕方について、また、教室の目標等を話し合い、教室の開講意義、講座の内容や流れなどを確認させていただきます。更に、受託事業者が教室運営をしてくださる間、実施期間を通して伴走し、打ち合わせ・サポート等をさせていただきます。行政と受託事業者の間に入り、お互いの希望や意見のすり合わせを行うなどの働きかけも行います。

つぎにコーディネーター派遣についてですが、こちらは、愛知県内の市町村にお伺いし、現地の日本語教室や、人材確保、人材育成の方法についてなどのご相談をお受けするものです。

最後にネットワーク会議ですが、こちらは様々な機関・団体などと協働を図るための情報交換や意見交換をする目的で開催されるものです。同じ参加者が毎回集うというものではなく、テーマによって参加者が異なっています。私はこれまでの経験から、県内の国際交流協会の職員の皆さんが集う会議に参加させていただいております。

――では岐阜県での活動内容はどういったものでしょうか。

岐阜県では、岐阜県の日本語教育体制整備事業の一つでもある、令和5年度から新たに始まったオンライン日本語教室のお手伝いを主にさせていただいております。私が担当させていただいているのは、オンラインコースの2コースです。一つは少し日本語が話せる方向けの対話型コース、もう一つは初学者の方向けの「はじめの一歩クラス」です。対話型では、県民の皆さんが日本語パートナーとして参加でき、日本語学習者の皆さんと対話しながら日本語を学ぶものです。もう一つのコースは、日本語指導者がいて学習者の皆さんがいる、というコースです。どちらのコースにも2名の日本語指導者の方がいらっしゃいます。

私はコーディネーターとして、参加者の状況を踏まえ、コースの内容、進め方などを、主催者である県や、運営を担う県国際交流センターの皆さん、そして各コースの指導者お二人と打ち合わせを重ねます。各コースの授業を同席させていただきながら、要所に振り返りの機会を設けて、現状の把握や課題の検討を行い、チームで共通認識を持てるよう努めています。

――同時に二つの県でコーディネーターとして関わってらっしゃいますが、二つの県の違いや「求められる役割」はどのような点だと感じていますか。

両県にどちらもある日本語教育体制整備事業の日本語教室開設に関して申し上げると、あくまで私の活動内容に限ってのお話ということになりますが、連携する相手の違いと、日本語教師色の強さの違い、ではないかと思います。

まず連携について、愛知の場合は受託事業者(団体・組織)との連携が多くなり、岐阜の場合は担当させていただいているコースがオンラインであり、外部のステイクホルダーがいないことから、主にコースを担当してくださる日本語指導者の方、個人との連携が求められることです。

日本語教師色の強さ、というのは、日本語教師としての役割の比重という意味です。愛知県で担当させていただく活動にももちろん、日本語教師としての知識やスキルが求められます。講義を担当させていただくこともあるし、授業内容やコースの組み立てなど受託事業者と相談、検討することが多々あります。しかしそれ以外にも、行政の方とのやりとりや、その他担当地域のステイクホルダーと関わるという役割も少なくなく、日本語教師以外の役割がたくさんあるのだということを感じました。

一方、岐阜県で私が担当させていただくオンラインコースの活動については、日本語教室の運営など、コースデザイン、カリキュラムの検討といった日本語教師寄りの役割が強いように感じます。

地域日本語教育コーディネーターになった当初、私はコーディネーターとしてどう動くべきなのか、という戸惑いがしばらく続き、モヤモヤとしていた時期がありました。でもある時、「日本語教師は日本語の授業に携わるもの」という無意識の想いに囚われていたのではないかということに気づきました。コーディネーターの役割を、日本教師の一側面から捉えていたことで、私自身が自分の行動や役割を勝手に制限してしまっていたように思います。

しかし、それに気付いて以降は、「日本語教師だから」と考える必要はまるでなく、コーディネーターとして、そこで求められる仕事に徹すればいいと思えるようになりました。

2県において携わる機会をいただけたからこそ、様々な方と連携・協働するなかで、日本語教師の私と、コーディネーターの私を時に入れ替え、時に混ぜ合わせながら柔軟に変えていくことの大切さに気付きをいただきました。

これは私の場合のお話をいたしましたが、「地域日本語教育コーディネーター」といっても、担当する地域やステイクホルダー、そして自身の専門分野等が異なれば、一人ひとり役割や動き方が違うだろうと思います。

――コーディネーターとしてとは「日本語教師」としてではない役割も大きいということですね。コーディネーターとしてはどのような資質が求められるとお考えでしょうか。

個人的に思うのが、いろいろな方とつながっておく、普段から他分野・他業種の方と連携し、協力していける関係性を構築しておくことです。

例えば、ソーシャルワーカー的な動きができることも大切な資質なのではないかと考えています。

学習者の皆さんは、当然のことながら、学習者以外の側面(顔)をお持ちです。だれかの親であり、介護者であり、会社員であり……様々です。地域の日本語教育に携わっていると、日本語学習以外の様々な側面において皆さんが抱えている困りごとを知る機会が数多くあります。そうした困りごとを解決や改善に導くためには、日本語教室内でできることはごくわずかです。その場合、どの分野の誰につなげばこの問題が少しでもいい方向に向かうのか、ということを知っておくのが大切なことなのではないかと、個人的には強く思っています。そもそもそうした「つなげ方」を知らないと、目の前に困っている方がいても何のサポートもできず苦い思いをしてしまいますので……。

――実際にそれを実感したような出来事はありましたか。

そうですね、最近の例でいえば、お子さんを日本に呼び寄せたいんだけど、日本の小学校についてよく分からなくてどうすればいいか、という悩みをコーディネーターとして関わった日本語教室で話されたことがありました。その方のお住いの学校区の状況や、手続きに関してなど、その場にいた日本語教室の参加者だけでは対応できなかったので、その後ご本人と市役所の担当課等をおつなぎし、地域の年少者教育をされている団体をご紹介するなどして無事にお子さんを迎え入れた、ということがありました。

――では、今後の課題と感じていることは何ですか。

どうやって一人ひとりに当事者性を持ってもらえるか、ということです。日本人市民とか外国人市民とか問わず、共生・共創など、「そうした話題は自分とは無関係だ」と思う方は少なくありません。そうした皆さんに少しずつでも、興味関心を持っていただくにはどうするか、というのが個人的な課題です。

対話の場や、交流の場をつくるだけではなく、その場に参加していただける工夫が大切だなと日々感じています。関心のある方は参加してくださる。でもそうでない方にどのようにしたら知っていただけて、一歩踏み出していただけるか。

「いろんなところから来ている人がいるのは知っている。尊重していれば、それでいいでしょ」という状態のままだと本来の共生にはならないんじゃないでしょうか。多様な価値観・属性の方と同じ地域で生きていくためには、そうした「異なり」をどのようにすり合わせていくのか。同じ地域で、どのようにしたらお互いに心地よく生きていけるのかを考えていく過程があるからこそ、そうした地域づくりのために、自分も他者もいい意味で変わっていけるのではないかと思います。コーディネーターとして、これからも他分野他業種の方と話したりつながったりする中で、多角的な視点をいただき、共にこの解決となるヒントを見つけていきたいです。

様々な現場で活動なさっている横山さん。日本語教師としても働き、地域でも二つの県を担当なさっているということで、時間はどうやりくりしているのかなと思うのですが「土日や夜などの時間も使いながらそれぞれの仕事を調整しています。特に地域の活動は、本当にいろんな世代や背景の方がいて、対等な個人同士の付き合いができる感覚がうれしくて。こういう活動全部含めて日本語教師の仕事を好きでやっているので苦にならないですね」とのこと。これからの活躍も応援しています!